CASHI

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Artist Interview – 興梠優護・村上友重 「真夏の夜の夢」

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(*Sorry, This article is described in Japanese.)

今夏CASHIで開催する企画展「真夏の夜の夢」。タイトルは有名なシェークスピアの戯曲と同じですが、今回は”真夏の白昼夢”をテーマとしました。
茹だるような暑さの中、気怠い体を抱えて見た後から思い出すと夢だったのか現実だったのかわからなくなるような夏の記憶。その”白昼夢”を興梠、村上の作品群に共通して見られる「記憶、朦朧感、孤立感、真夏の色彩」等のキーワードで演出致します。
今回は展覧会開催を期に作家お二人にお話をお伺いします。シェイクスピアの戯曲と内容、タイトルの意味は全く異なりますが、もう一つの「真夏の夜の夢」という戯曲の台本として、この展覧会のご観覧前、またはご観覧後でも是非ご拝読ください。

興梠優護 Yugo Kohrogi
1982年 熊本生まれ
2007年 東京藝術大学 美術学部絵画科油画専攻 卒業
2008年 トーキョーワンダーシード入選
2008年 トーキョーワンダーウォール入選
現在東京藝術大学大学院美術研究科在学中

村上友重 Tomoe Murakami
1980年 千葉生まれ
2004年 早稲田大学第一文学部文芸専修 卒業
2004年 第6回三木淳賞受賞
2006年Vermont Studio Center にレジデンス参加
現在東京芸術大学美術学部教育研究助手

—–それではまずインタビュー経験のある村上さんからお願いしたいんですが、写真をつかった作品を制作するきっかけ、それから今に至る経緯を教えてください。
村上(M) わかりました(笑)。大学を卒業後、しばらく会社員をしながら撮っていたんですけど、その頃は仕事が休みの日にちょっと出て写真撮って…というようなことがほとんどで、それから会社を辞めて写真に向かう時間が少しずつ増えて、今は作品を作るということを少しは意識するようになりました。ただ、作品作品しているようなものだけじゃなくて、スナップは今も好きなので撮り続けています。現在は東京藝大の写真センターというところで働いていて、プリントなんかもそこでする事が多いですね。

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(画像:1)「水の惑星 #004」2007 typeC-print H80xW100cm

—–大学は早稲田の文学部ですよね。ということは写真に関しての専門的な教育は受けてらっしゃらないんですか?
M そうですね。特に写真の専門的な教育は受けてないですね。プリントの仕方は貸暗室のスタッフの人に軽く教えてもらったり…本当それぐらいです。そもそも、祖父が持っていたカメラを借りたのが最初でした。初めて撮影したときに背景がぼけて、ピントがあった所だけはカチッとしてる。当たり前のことなんですけどとても感動したのを覚えています。今もそうなんですが、元々カメラの工学的なところに惹かれて。たとえば4×5カメラ(※1)。すごく構造がシンプルでレンズ、フィルムが平行になって、レンズについたシャッターが開いて光があたった時間分だけフィルムに影響するってすごく原始的で美しい、面白いなと感じるんですね。そういうのもあって最近は4×5を使って作品を撮ったりしています。
—–なるほど。それでは今回の出展作品に関して、簡単な説明をお願いします。
M まず「水の惑星」(画像:1)なんですが、これはニコンサロンでの個展(※2)で出展した作品をいくつか再構成したものです。水が凝縮して空気がぼわっとなった場に出会ったときに撮影したものを集めたものですね。そして、その後制作した「闇と光とその言葉と」なんですけども、幼いころから星が大好きで、いつか星をモチーフに撮りたいって思っていました。
—–「闇と光とその言葉と」(画像:2)シリーズは、何か星空を閉じ込めた「宝箱」ような感じがしますね。
M そうですね。あの作品はすごく「モノ」的な要素を強くしたかったんです。写真はネガ等の物理的な理由から大きく出来なかったので小さくして、黒いフレームに入れてあります。黒い「モノ」として成り立たせたかったというか…そういうところも意識しました。
—–モチーフが同じという点から、「闇と光とその言葉と」を見て、トーマス・ルフの「星」のシリーズを思い浮かべる方もいるかもしれません。私は個人的には制作意図も、わかりやすいところで大きさでもルフの作品とは対極だと思うのですが、そこについて意識されたことはありますか?
M もちろんルフの存在も写真も知っていましたが、星の写真だけは勉強不足で、私がこの作品を作った後で知りました。確かに、被写体も同じ天体ですし、似ているのかもしれませんが、それはルフに失礼だと思います(笑)。ルフの目指したものと、私が撮ろうとしたものは全く違うと思いますから。
そもそも私の制作の基本は、大抵「自分が興味があることに近づいていく」ということから始まっているので、今回も昔からの憧れの対象であった星に、近づきたい、触りたいというのが、そもそもの制作のきっかけでした。なので、そこまで深い意図や策略がこの写真にあるわけではありません。
それよりむしろ、イメージそれ以上でもそれ以下でもない、フラットな状態のこの画像の中で、見た人本人が様々な想像を膨らませて、そのひと個人の読み解き方で楽しんで欲しいと思います。
なので、ルフの作品のことを言われると正直戸惑ってしまいます。私はあそこまでコンセプチュアルには全然なっていなくて、もっと緩く見る側に余地を残していると思います。そういう点から、私の写真は彼とは全く違う作品ではないかと思っています。

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(画像:2)「闇と光とその言葉と」2008 typeC-print H35.2xW26.7cm

—–興梠さんの作品ではモチーフにインターネットで公開されているポルノ画像を使われてるそうですが(画像:3)、その事に関して簡単に経緯等を教えていただければと思います。
興梠(K) 今現在、東京藝大の大学院では版画を専攻しています。版画を制作していると「複製」というキーワードが自分の中に生まれてくるんです。これとポルノ画像というモチーフ、やりたかった事がパズルの様にうまく合致したんです。もう少し詳しく言えばポルノ画像はどんどん複製され、増殖していくんですね。欲望が強ければ強いほどそのポルノは増殖していくスピードも加速していく。増殖すればするほど欲望の眼差しに照らされて形が変わっていくんです。それを描きたい。わかりにくいかもしれませんが、例えて言うなら”ろうそく”です。火が強ければ蝋は溶けて変形していく。

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(画像:3)「l 06」2007 oil on canvas H65.2xW45.5cm

—–なるほど。ポルノ画像のモデルである女性を描いているけれど、本当は男性側の視点というか、見る側の欲望を描いているんですね。
K そういうことですね。
—–制作の背景というか、プロセスは少し版画っぽい部分があるんでしょうか。
K 自分は院の前は元々油絵を専攻してたんです。ただ油絵をやってってもあまり面白くないというか何をやりたいのかがいまいち定まらなかったんです。版画ってすぐにフラットな面を作れるので、そこに惹かれて学ぼうと思いました。元々雑誌が好きで、絵画と雑誌の間のようなものを作れればなという気持ちが、版画に興味を持たせたのかもしれません。版画って最後の出来上がりをはじめから頭の中にイメージして、レイヤーごとに分割させながら作品を作っていくんです。そのプロセスを消化していくうちに、油のほうもすごく描きやすくなりました。院に行く時は、専攻するのは油か版画かって選択肢があったんですけど油を選択しちゃうと版画は多分できない。版画専攻なら油にも自由に手を出せるだろうなと(笑)。どちらもやりたかった。逆に両立することによって何かが生まれるだろうという気持ちもありましたし。
なので製作プロセスは基本的に版画を制作するように描いてます。コンセプト、そして明確な完成図を頭に浮かべる。作業に入ってから出来上がるまではコンセプトのことは殆ど考えず、目の前にあるヴィジュアルの美しさを追及していきます。もちろん完成イメージと作業中のイメージで若干ズレが出てきますがそれもすごく心地いいというか楽しいですね。
—–雑誌ですか。少しデザイン的な要素みたいのもあるんでしょうか?私は興梠さんの作品を初めて見たとき一瞬イラストレーションのような平面的な感覚を感じたんですが、実は違いました。その作品の前に立っていると不安、情緒、男女性等の様々なふくらみ、ポップとは消して相容れないものを感じます。
K グラフィックデザインとかも興味はあるんです。ただ、それは見ることが好きという点で。なので自分が描く絵はまったく違うと思っています。僕としてはすごく古典的に描いてるつもりなんです。すごくアカデミックに描いてる。
—–モチーフは女性ばかりですよね。(画像:4をみて)私これすごく気に入っているんです。これ男性に見えたんですけど、女性なんですよね?

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(画像:4)「wry mouth」2005 oil on canvas H38.8xW45.5cm

M あ、私どっちか分からなかった…
K これは女性ですね。特に女性だけ描くとかって決めてるわけじゃないんですけど…
M でも見る側の視点も描くっていうのは単純に考えれば主に男性の視点ですよね。もちろん例外もありますけど。
K 自分としては女性を描く”だけ”じゃなくてこっち側、というか自己投影とまではいかないけど自分自身も入れて描きますね。あとこのシリーズを描き始めたころはさっきもいった通り「複製」をテーマとして描いてたんですけど、3年前に母が亡くなったんですよね。それ以降は色の部分に母性のようなものも入っていると思います。
—–母性ですか?
K 意識的にじゃなくて、後から気付いたのがほとんどなんですが…色がやさしいというか包み込んでくれるような…それこそ赤ちゃんの頃に抱っこされたり、お乳を飲んでいた時感じていたような母親のイメージ、肌を感じるような色を多様しているなぁ…と。
—–言われてみれば女性的というか、やわらかい色が多いですね。モチーフの女性に母性を求めていると…それは面白いですね。

—–今回の展覧会では興侶さんがペインティングを展示されてらっしゃいますが、村上さんは制作する上で絵画を意識されたことはありますか?
M 写真ってそこにあるものと出会わなければ始まらないというか。絵と違って被写体が存在してくれないとできないというメディアなんですよね。そういう意味では違うものなのかなと。なのでそれほど意識をしたということはないですね。写真と絵画はそれぞれ短所長所があると思うんですが、たとえば写真はさっきお話した「被写体が必要」というところです。それは不自由なことかもしれないんですが逆に私は楽しんでいます。…というか、誤解を恐れずに言えば、実は私、絵を描く人の感覚が分からないんですよ(笑)。
K え(笑)。
M すみません(笑)。だからこそ興味があるんですけど、なぜそう描くんだろうとか、すごく根本的なことに興味が向かってしまって「絵をかく人って不思議だなー」といつも思います。絵を描く人の感覚を理解したいとも思うんですけど結局私にはそういう感覚がないんだろうと感じる。何か決して手に入らないものに手を伸ばす感じで、どこがわからないというのもわからなくて…。一応私なりにデッサンだけは少しやったり「絵をかく目」を体験してみたりするんですけど、結局分からない(笑)。ただ作るという点では一緒だと思います。私には、そもそもそういう習慣もないからいままで絵で作品を作ろうと思ったりしたことはないです。
K 僕は高校の頃から美術系の高校に通っていたんで、逆に普通の人というか、そっちの気持ちがわからないですね…小さい頃から漫画を描いたり、あと好きな漫画を真似て描いてみたりしたのを友人に見せて、褒められる。絵はあって当たり前でした。
M 絵描きの方にこういうこと言うのも失礼なんですが、ほんと、絵、上手ですよね(興梠さんのポートフォリオを見ながら)。
(一同笑)

—–お互いの魅力をお聞きしてもよろしいですか?
M 先ほど仰っていた「アカデミックに絵を描いている、もしくはそうしようとしている」というのがとても印象的でした。絵だけ見ているととてもポップで「今」っぽい。自由に遊びながら描いているように見えるのに、絵画のセオリーをきちんと踏まえていて、と。そのギャップに驚き、でもとても興味深かったです。
K やわらかくて透明感のある作品だなーと思っていたんです。今日初めてお会いして、ご本人も作品とそっくりな方だなと思いました。あまり初めて会った気がしなくて…作者と作品からここまで同じイメージを感じるのはある意味珍しいんじゃないかなって(笑)
—–それぞれ写真、絵とはご自身にとってなんですか?
M 私にとって写真とは行為であり思考そのものだと思っています。身体を動かし、カメラの重さを感じ、被写体となるものを見つけ、撮ること。私は思いもよらずですが、写真をこうして続けていることで、きっと何らかの思考パターンをそこから得ているように思うんです。
そして、写真は「問い」だとも思います。決して答えを与えてくれない、永遠の問いを問いかけるもの。ナゾナゾのように、考えるきっかけとなる問いだけを発し続ける装置のようなもの。だから私は写真を撮り続け、それによって考え続けていると思うのです。
K 僕も同じような感じですね。描くことを止めることは出来ないです。生活に組み込まれてしまったというか、衝動というか…そういうものです。
—–最後に、今後の活動目標などを教えて下さい。
M 11月に個展をプンクトゥム(※3)でやるので、新作の製作をがんばらないとな、と。
K 今回初めて50号という大きさを描いたのですが、次は80号ぐらいにまでチャレンジしてみたいですね。
—–お二人とも活躍が楽しみです。今後CASHIとしても様々な方面でお二人をバックアップできたらと思います。今日はどうもありがとうございました。

聞き手・文章:松島英理香

※1 4×5インチ判の大判カメラ。「シノゴ」と言うことが多い。大判の中で最も多く使用されるフォーマット。カメラやレンズ、フィルムなど、機材も豊富。
※2 2007年に新宿ニコンサロン、大阪ニコンサロンにて開催された村上友重展「水、満ちる -the series of water-」のこと
※3 PUNCTUM Photo+Graphix Tokyo( プンクトゥム・フォトグラフィックス・トウキョウ)。京橋にあるギャラリー。代表は寺本一生氏。 http://punctum.jp