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Artist Interview – 三木サチコ 「震度1の微震」

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(*Sorry, This article is described in Japanese.)

三木サチコ Sachiko Miki
1974年 群馬生まれ
神奈川在住
東京造形大学の現在の大学院にあたる研究生制度(彫刻領域)を修了後、東京を中心に精力的に活動。近年は自身の涙をテーマとして制作を続ける。泣くという感情はネガティブな流れに向かいがちだが、悲しいときも嬉しい時も流れる”涙”に支えられる人、そして涙という水分を糧に伸びる植物が描かれる三木の作品からは、女性らしさや生へのエネルギーを感じとれる。今回が二度目の個展となる。

—–個展は2回目とお聞きしました。いかがですか?以前の個展から今回の展示までの移り変わりなどはありますか?
個展は実質2年近くぶりになります。初めての個展の時はもうテーマは涙になっていて、コンセプトは今ともうほとんど同じものに固まった頃でした。「Rainbow」(画像1)等を出品したんですけど、でもまだ素材と格闘があったというか…やりたいものもみつかって、やってみたけれどまだ少しイメージと違うというのがやっぱりあって…なので、少し悔しさの残る個展でした。

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(画像1)「Rainbow」2007 FRP アクリル H900xW400xD200mm

—–確かに、ポートフォリオを拝見する限りではテーマが涙に固まった後も、少し試行錯誤なさった感じが伺えます。本当に現在の形や色味に落ち着いたのは、最近ですよね。
そうですね。ここ1年くらいで。そのあと何回かグループ展などを重ねてきまして…
—–完璧に固まってからは初の個展になるわけですね。光栄です
いえ、こちらこそ
—–どうですか?今回の展示の出来としては。私としては見せたかった三木さんの魅力も引き出せ、とても満足のいく展示にできて嬉しい限りなんですけど…
私もです。前の個展は、展示空間が平面的になってしまったのが反省点だったんです。作品のボリュームも全部同じようになってしまって…更に、展示で高低差を使うなども考えられなくて…なので今回はかなり空間を使った展示方法ができ、そして作品自体の幅も増えてとても満足のいく展示になりました。
—–さて、ここで三木さんの作品の一貫したテーマである涙についてお話しを伺いたいと思います。
なぜ涙なのかっていうのはよく聞かれます。私自身とても泣き虫で、嬉しくても悲しくてもすぐ泣いてしまうんです。泣くということはネガティブにとらえられがちですが、私は自分の涙とずっと付き合ってきて、もっと前向きに、肯定的に捉えたいと思ったんです。
—–先の話と重複しますが、涙というテーマに固まったのはここ2年ほどですよね。
そうですね。それより以前の作品では「作品は社会的な物と絡まないと成立しない」と思いこんでいたんです。それで、日常のニュースや時事ネタを作品にしようとしていました。でもそうやって外側から作ったものは自分としてもリアリティに欠け、観客にも伝わりにくいものでした。なのでもっと自分にとってリアリティを感じられるところからアプローチしたほうがいいのかなと思って。それって自分にとって何かなって思った時に、どう考えてもおかしいくらいに出るのが涙なので、そのあたりを考えてみようと思って。
—–なるほど。失礼な言い方になっていたら大変申し訳ないのですが、そのお話を聞くと三木さんはすごく、すごく良い方向に脱皮されたと思います。昔の作品も技術的には完成されてるし、クオリティは高いと思いますが、私にとっては「三木さんの作品」ではないかな…と思ってしまいます。作品を社会問題にからめないといけないと思っていたところから、自分の内面にテーマを求める方向へ変わるのに戸惑いや不安はありませんでしたか?
舟越桂さん(※1)が、スフィンクスのシリーズについてお話しされていたことなんですけど、ドイツの小説ノヴァーリスの「青い花」(※2)で、スフィンクスに「世界を知ると言うことは?」と問われた少女が「自分自身を知ること」と答える話があるんです。その話を聞いて思い出したのですが、高校生の頃倫理の授業がすごく好きだったんです。学ぶ前は道徳のようなものかと思っていたら、古来より哲人達の考えてきた思想を教わるもので…その中でインドのウパニシャッド哲学というのがありました。広い宇宙の根本原理、梵であるブラフマンと、一個人の核、我であるアートマンは同じものである、という考え方だったと思います。突拍子もないようだけど当時理屈抜きに納得がいって…その話にとても感銘を受けたんです。何か、大事なことであると思いました。先の舟越さんの話は、そのこととよく似ている気がします。
—–ああ、よくわかります。結局たどり着くところは同じなんですね。
そうなんです。私の作品は、アプローチの方法は以前とは正反対になったけど、到達しようとする場所は変わってないんだなって。涙が私にとって何であるのかという問いに答え続けることは、人間というものについて考えることに通じると思って。
—–それでは個々の作品についてお話しを聞きたいと思います。まずは代表作と言える「flower drop」(画像2)から。私はあの作品、涙に花が咲き、そしてその涙に支えられてるというのがもう…色味も含め、すごくポジティブで一番象徴的だなって思うんですけど、いかがですか?
本当にその通りで、あのオレンジから赤にかけての色味もそうですし、花もそういう意味で使いました。

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(画像2)「flower drop」2008 FRP アクリル H1400xW400xD400mm

—–ポジティブって言い方が私の中ではちょっとまだ違うかな、と思ってしまうんですけど…涙に支えられてるってすごくいいなって思います。ロマンティック…といえばいいのかな…
今、私は涙に支えられてるっていうのがすごくしっくりきました。
—–あ、本当ですか。嬉しいです。泣くという行為には支えられますよね。これ、女性だからなんでしょうか?
そうかもしれないですね
—–男性のほうが女々しいというか…女はわりと泣くとすっきりしちゃったり。とにかく三木さんの作品の、感情に支えられてるって部分がすごい共感できるんです。「silent shout」は涙に乗ってるんですよね?
そうです。実は「silent shout」(画像3)には兄弟というか前の子がいて…この「small chili」(画像4)なんですけど、なんかあのあのときやり残したことを、もうちょっとやってみたいなって思って。涙に乗ってるというこの形は私の作品の中でかなり基本形の形ですけど、今回の「silent shout」では色などもカラフルにしました。

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(画像3)「silent shout」2008 FRP アクリル 1170xW220xD280mm

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(画像4)「small chili」2007 FRP アクリル H700xW300xD300mm

—–この基本形の形はすごいかわいいんですよね。私も「silent shout」はすごく気に入っています。ただ、そういうのを考えると「雲海」(画像5)がまだ少しわからなくって…あれは雲の部分が涙なんですよね?
そうですね。あれ、水の中に浮いてるみたいな感じで…涙に浮かんでるんです。
—–なるほど!涙のプール!水面なんですね。じゃあやっぱり涙に支えられてるんですね。今、すごくすっきりしました。「新月」(画像6)は泣いてないですね?
「新月」は表情としては泣いてないんですけど、頭の中を涙が通ってその水分で頭のうえから芽が出てるんです。

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(画像5)「雲海」2008 FRP アクリル H280xW1460xD120mm

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(画像6)「新月」2008 FRP アクリル H1070xW360xD360mm

—–全体的に三木さんの作品は体型とか大きさ、形とかが子供ですよね。さっきお客様が「”よしよし”ってしたくなる」って仰ってたんですけど、もっともで。存在がなんというか…子供なんですよね。”この子”って言いたくなる感じなんです。
そうですね。子供くらいの大きさとかは意識してます。自己投影しやすい大きさというか…結局自画像のようなものだと思うので。ただ、子供と言えば、キャラクターっぽいともよく言われます。まんがっぽいとか…でも、そういうつもりはぜんぜんなくて。実は私、中学を卒業する頃までは家に漫画は一冊もなくって、テレビもあまり見れない環境でした。漫画は友達の家に行って隠れてこっそり読む物だったんですよ。なので今は寧ろ、もっとたくさん見て影響を受けてみたいです(笑)なので漫画っぽいとかキャラクターっぽいって言われるのはちょっと不思議な感じです。
—–漫画っぽいですか…私は全然そうは思わないんですけど…たしかに、キャラクターっぽい形といえるかもしれません。あとは目の描き方とかでしょうか?
元々人間の体の形ってすごく好きなんです。でも涙というテーマがあるので、どうしても目と頭がすごく重要になってきて…なので頭が大きくなってしまうんだと思います。感情を考えるところですし。でも、形自体は自分の中でも事務的にというか、無意識に形を作っている部分があって…ドローイングして出てきた形を拾っていって、立体にするんですけど、意味的な部分で重要な形と、形的な部分で重要な形があって、形のバランス上絶対これに対してはこれくらいのボリュームが欲しいなってバランスで決めていくところですよね。あとは涙の意味合い的な部分で決めていくところがあって。
目の描き方は実は最初すごい悩んでいて、写真のリアルな目を埋め込むって言うか…描き込もうかとも思ったんです。目がすごい重要だっていうのは決まってたんですけど、それをどう表現するかって言うので悩んでて…でも写真は合いませんでした。
—–写実的な目ですか…とても意外です。性別についてはどうですか?作品をみると、しっかり性別が決まっていますよね。
性別は自分としてはすごい重要で、はっきり分けたいんです。ドローイングの時にもうはっきり決まっているんです。コンセプトはないけど、この子はこっちっていうのが絶対決まってしまうんです。
—–今後はペインティングなども挑戦してみたいとのことですが
そうですね。色々な方からそういうアドバイスをいただいて…ただ、自分としては大きなカンバスを目の前にするとすごく構えてしまうところがあるので、ゆっくり挑戦していけたらと思っています。まずは11月5日から深川いっぷく 調剤室ギャラリーというところで「とうふのかど」という個展を開催します。12月はギャラリーKINGYOで3人展「今日界線」に参加する予定です。
—–その時はCASHIでも掲載させていただきます。今日はありがとうございました。来年は、是非ペインティングも織り交ぜた展示を企画させて下さい。今後も期待しています。

聞き手・文章:松島英理香

※1 舟越桂(ふなこし かつら)。日本の彫刻家。岩手県盛岡市出身。父舟越保武も戦後日本を代表する著名な彫刻家の一人。その作品は多くの美術館に展示されているほか、国際的な現代美術展への出展も多い。また、書籍の装幀などに作品が使用されるなど、その作品は多くの人々の目に触れている。現在、母校である東京造形大学において教鞭をとる。(参考:Wikipedia)
※2 ドイツ・ロマン主義の詩人・小説家・思想家・鉱山技師であるノヴァーリス作、中世のミンネザングを主人公にする小説。原題は『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』。未完。(参考:Wikipedia)