高見澤峻介個展「Screening Organon」
「Screening Organon」
【展示再開のお知らせ】
新型コロナウィルス感染症の流行により会期途中で臨時休廊とさせていただいておりました、高見澤峻介個展「Screening Organon」を下記の日程で再開致します。4日間のみですがぜひご高覧ください。終日作家が在廊いたしますのですべての作品をご覧いただけます。
2020年6月20日(土)、21日(日)、27日(土)、28日(日)
11:00~19:00
2020年3月26日(木) – 4月12日(日)
出展作家:高見澤峻介
この度CASHIでは、3月26日(木)から4月12日(日)まで、高見澤峻介個展「Screening Organon」を開催いたします。
高見澤は、「発電」などのプリミティブなメディアを通して、映像・通信技術などの社会基盤の本質に迫る作品を生み出してきました。
彼の「発電」方法は、ゼーベック効果を利用した非常に原始的なものです。ゼーベック効果とは、温度差を与えることによって金属に電流が流れる現象のことで、熱電効果の一種です。彼はこの効果を利用し、ペルチェ素子と呼ばれる半導体に、蝋燭の炎という温熱源と水や空気という放熱源による温度差を与え、電圧を生じさせます。その電圧が、日々収集した電子部品やアルミ缶、シングルボードコンピュータなどを組み合わせて構築した高見澤の「器官(organ)」を駆動させ、デジタルイメージやウェブページが鑑賞者のもとに届くとき、普段当たり前のように享受される社会基盤や、目に止まらぬ早さで行き来する情報の物質性が浮き彫りになるのです。
本展では、昨年の四谷未確認スタジオでの個展「Screening Organon」(2019年、キュレーション:布施 琳太郎)にて展示された作品をアップデートするとともに、ドローイングを数点展示いたします。この機会に是非ご高覧頂きたく、ここにご案内申し上げます。
高見澤峻介の個展によせて
布施琳太郎
当たり前過ぎて誰も気に留めない事、あるいは物……それこそが同時代性だが、それを明るみに出すことは最も反時代的な行動を強いる。しかしこうしたパラドクスを認め、その系譜を描き出すことを可能にしたのが「コンテンポラリーアート」という概念であるならば、高見澤峻介の活動ほど適した例は今日存在しないだろう。
なかでも発電をメディアとした作品は、電気の物質的な側面を露出させることで、イメージが現れることの意味を私たちに問いかける。『Fire Display』(2019~)において彼は、温度差によって電圧を生じさせる「ペルチェ素子」という電子パーツを用いて小型のコンピュータを駆動させ、イメージを灯した。熱を持つと同時に光を放つ炎。その熱は電圧へと変換され、光はディスプレイのバックライトを代替する——冬の冷気と蝋燭の炎の間で電子の運動がはじまった。
だがインディペンデントな発電行為が、彼の活動を特徴付けるのではない。まず彼は様々な場所から集めた電子パーツやアルミ缶、蝋燭、ボルトなどをブリコラージュする。それはひとつの「器官」(organ)となり、最後には閉じた回路のなかを巡る電子がイメージへと変質するのだ。彼は発電を用いて、イメージのリアリズムを探求する。それこそが彼の活動を貫く問いだ。
そして2019年の個展『Screening Organon』(四谷未確認スタジオ, キュレーション:布施琳太郎)において彼は、自ら作った電気を用いてウェブサーバを立ち上げた。展示会場を這う透明なホースのなかを流れるエアコンの排水、そして目の前で揺れる蝋燭の炎。その温度差によって作られた電力に、鑑賞者はワールド・ワイド・ウェブを介して自らのスマートフォンでアクセスする——その刹那、この手のなかにあるものもまた、ひとつの器官であることに私たちは気が付くだろう。本展ではアップデートされた本作が展示される予定だ。
彼の活動はプリミティヴである。しかしそれは野蛮さとは無縁の、知性の誕生の瞬間に立ち会う感動を意味する。極度の緊張状態のなかで安定した電圧が生じ、私たちのそれぞれの手のなかにイメージが現れる。それは集団で焚き火を囲む際の、息を飲むような一体感の等価物だ。高見澤峻介の活動はプリミティヴであるが故にイメージと直面することの感動へと私たちを導き、今日の社会を基礎付ける下部構造の物質性を露わにする。そこにはイメージが「ある」という確かな手触りが待っているだろう。